『いい人ランキング』(吉野万理子)

いい人ランキング

いい人ランキング

タイトルがいいですね。吉野万理子の作風を知る読者であれば、最低最悪の胸くそ悪い話になるであろうことは容易に予想できるので、期待が高まるばかりです。
主人公の木佐貫桃は、真面目ないい子で母親の再婚により急に富豪になった、シンデレラストーリーを体現するような子でした。中2の夏、桃のクラスは文化祭でミスコンを企画していましたが、職員会議で却下されたため、カースト上位女子たちがかわりにクラス1の善人に投票する「いい人ランキング」をやろうと言い出します。当然選ばれたのは桃。その後、桃は「いい人」だからなにを頼まれても断ることができないということで灰かぶりのようなクラスの奴隷となり、使い走りをさせられることになります。
いままでの作品でも証明されているとおり、吉野万理子は子どもが最悪の状況に追い込まれていくさまをいやらしく描くのが超人的にうまいです。すぐにクラスには桃の味方は誰ひとりとしていなくなります。そして、桃の味方となる人物たちもくせ者揃いなのです。
桃の味方のひとりは、妹の鞠。彼女は桃と違って狡猾さを持っていました。彼女もクラスの「いい人ランキング」で選ばれていましたが、受賞の挨拶の場面で自分は選ばれるのにふさわしくない人間だと言って泣き真似をして反感を持たれることを防ぐという作戦で難を逃れていました。
もうひとりの味方は、桃とは別クラスの2年生で鞠が「師匠」と慕う尾島圭機という少年。彼も外面はいい人に見えますが、実は犯罪に手を染めそうになりながらも失敗して逆に手痛いしっぺ返しを受けたという暗い過去を持っていて、現在は人心操作の達人として暗躍していました。
人間の善性を信じず、冷徹に人間を観察する圭機や鞠の絶望は深いです。そんな彼らとの対比により、天性の善人である桃のモンスター性があらわになるという構造もひねくれています。
吉野万理子には、ぜひこの路線でがんばってもらいたいです。