『落語少年サダキチ』(田中啓文)

不良にからまれている酔っぱらいじじいを助けた忠志は、お礼にと「平林」という落語を聞かされます。これをきっかけに落語に興味を持った忠志はクラスのお楽しみ会で落語を披露して大盛況。爺さんがいる石碑にお礼に行くと、なんやかんやあって江戸時代にタイムスリップして、「平林」のように「ケロケロイハチ」という家を探している丁稚の友吉の手助けをすることになります。
「たーいらばやしかひらりんか、いちはちじゅうーのもーくもく」「こーこーとーこーこーとー」「いちもくさんずいとくじ」など、リズムで観客を酩酊させ笑いの渦に引きこむタイプの作品が、落語には数多くあります。その酩酊感を紙の上に再現することに成功したのが、この作品です。田中啓文の文章のリズムと祖父江慎タイポグラフィ芸が爆裂し、それに朝倉世界一の気の抜けたイラストが彩りをそえ、紙の上で愉快なダンスが繰り広げられます。難しいことはなにも考える必要はありません。ただ読者の脳内で暴れ回る「ケロケロイハチ」に身を任せていればいいのです。
『どろんころんど』『鈴狐騒動変化城』『シンドローム』そしてこの『落語少年サダキチ』と、「ハナシをノベル」界隈の関西SF作家と福音館と祖父江慎のコラボもすっかりおなじみになりました。この作品群は、どれもその年のベスト級の傑作です。ぜひこの路線は長く続けてもらいたいです。