『女神のデパート 1 小学生・結羽、社長になる。』(菅野雪虫)

(なんか、あたしの周りって、『昔はすごかった』っていうものばかり。)
みんな結羽の生まれる前、高度経済成長やバブルと呼ばれる時代のものばかりだ。そういうのは「前世紀の遺物」というのだと、新聞に書いてあった。
(p33)

七福神に守られているはずなのに寂れている東北の商店街で、どうにか生き残っている老舗デパートの弁天堂。赤字続きで従業員のモチベーションもゼロという状況で重役が相次いで病院送りになったため、社長の娘のわずか11歳の結羽が社長に就任させられることになります。
異世界や過去を舞台にしたファンタジーの形式で社会派児童文学を書き続けてきた菅野雪虫が、現代を舞台に政治や経済を語った作品ということで、話題性は十分です。菅野雪虫が語る現代は、衰退社会となってしまった日本です。小学生の主人公の愛読書が社史で、過去の栄光(それも江戸時代の)を楽しく読んでいるという状況がもう絶望的です。
小学生が社長に就任してもなにかめざましい改革ができるはずもなく、せいぜい話題作りの広報係としての役にしか立ちません。それだけでも悪い意味で目立ってしまい、いろいろいやな目に遭います。中盤までは現代日本の希望のなさがこれでもかと語られるので、読者の気分は重苦しくなるばかりです。
そして、ストレスをためにためたのちに助っ人が降臨してから、ようやく爽快感のある展開になります。女神の武器は無限の知識と記憶力。情報こそが武器であるという現実的な打開策が提示されるところが、菅野雪虫らしいです。
話が本格的に盛り上がってくるのは2巻以降でしょう。弁天堂を吸収しようともくろんでいる大企業の令嬢や、商才があるのに会長(結羽の祖母)から疎まれている副社長のおじなど、くせのありそうな脇役も控えています。彼らが本格的に暴れ回ってくれれば、物語はどんどんおもしろくなっていきそうです。