『牛乳カンパイ係、田中くん めざせ! 給食マスター』(並木たかあき)

牛乳カンパイ係、田中くん めざせ! 給食マスター (集英社みらい文庫)

牛乳カンパイ係、田中くん めざせ! 給食マスター (集英社みらい文庫)

小5のゴールデンウィーク明けに新しい学校に転校してきた鈴木ミノルには、悩みごとがありました。それは、好き嫌いが多くて給食の時間が憂鬱なこと。ところが、新しい学校には給食に関するトラブルを解決する〈牛乳カンパイ係〉という珍妙な係があって、係の田中くんが
「オレの血は、牛乳でできている!」
という決め台詞からコールを始めると、給食の時間は異様な雰囲気になります。ミノルはクラスの乱暴者から嫌いな牛乳を押し付けられて早速ピンチに陥りますが、田中くんの機転に助けられます。
学校給食が世界平和にまで関わってくるという設定の過剰さが楽しいです。田中くんは奇想天外な必殺技をいくつも持っていて、給食の麺で拘束技を繰り出したり、台所にある意外なもので火事を消火したりします。
イラストの画風や設定からおバカ要素ばかりが目につきますが、この作品はほかにも魅力を持っています。そのひとつは、知識の読み物であるということ。田中くんら給食の達人たちは、知恵と工夫でミノルの好き嫌いを解決しようとします。牛乳にサイダーを入れてくさみを消したり、ピーマンを天ぷらにして、苦みを油で溶かしたり。料理とは化学で、だからこそおもしろいのだということを、わかりやすく教えてくれます。
さらに、意外ときまじめな児童文学であるという側面も持っています。集団で食事すると、さまざまな人間関係上のトラブルがおそいかかってきます。最後には、突然給食が中止(元凶は田中くんたち)になってしまい、全校生徒が弁当を持ってくることになるという、面倒なことになりそうなイベントが起きます。弁当には家庭環境が反映されるので、ふだんの学校生活ではあらわにならない家庭の事情が露呈したりしますから、大変です。道化を演じながら卓越したコミュニケーションスキルでそんな問題を解決していく田中くんがかっこいいです。