『ミステリアス・クリスマス 7つの怖い夜ばなし』(スーザン・プライス/ジョーン・エイキン/他)

ミステリアス・クリスマス

ミステリアス・クリスマス

ミステリアス・クリスマス 7つの怖い夜ばなし

ミステリアス・クリスマス 7つの怖い夜ばなし

  • 作者: ジリアンクロス,ジョーンエイキン,スーザンプライス,Gillian Cross,Joan Aiken,Susan Price,安藤紀子
  • 出版社/メーカー: ロクリン社
  • 発売日: 2016/10/31
  • メディア: 単行本
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イギリスの児童文学・YA作家による、クリスマスをテーマにした怪奇小説アンソロジー。今は亡きパロル舎から出ていたものの改訳新版が、ロクリン社から刊行されました。原書では全3巻28編だったものから7編を厳選した本なので、たいへんレベルの高い作品集になっています。子どもだけでなく、海外怪奇短編・幻想短編が好きな大人にもおすすめできます。
クリスマスとは、誰もが幸せであることを強制される日です。そんな日ですから、闇色に塗りたくってしまいたくもなりますし、それでもかすかな希望も夢みたくもなります。しかし、えてしてそんな希望は裏切られるもので、そういうタイプの作品ばかり並んでいます。特におもしろかった作品をいくつか紹介します。

「クリスマスを我が家で」デイヴィッド・ベルビン

クリスマス・イヴに家に帰るためヒッチハイクをした少年の物語。乗せてくれた男は出所したばかりの凶悪犯罪者でした。しかし、少年の方にも事情があり、奇妙な連帯が生まれていきます。何より怖いのは人間であるという話ですが、意外なラストはけっこう泣かせます。

「果たされた約束」スーザン・プライス

うざい弟をおどすため、冗談でウォータン(オーディン)を呼び出したら、本当に来てしまったという話。クリスマス・ツリーの飾られた部屋が一瞬にして無数の木の立ち並ぶ風景に変容してしまうシーンの幻想性は圧巻。スーザン・プライスらしい残酷描写が冴えわたり、約束された皮肉な結末まで一気に導かれます。

「狩人の館」ギャリー・キルワース

優れた狩人の亡霊が集まるという「狩人の館」に、残忍な男が場違いにも迷い込んでしまうという話。非常に切れ味のよいオチの利いた、優れたショートショートです。

ベッキーの人形」ジョーン・エイキン

これも、人間が一番怖いという話。問題のある子どもたちの学校で校長を務める男が、自分の過去のあやまちを語るという形式になっています。子どもの利己心・残忍性が取り返しのつかない事態を招いてしまう悲惨な展開には、言葉を失うばかりです。