『ぼくが消えないうちに』(A.F.ハロルド)

ぼくが消えないうちに (ポプラせかいの文学)

ぼくが消えないうちに (ポプラせかいの文学)

主人公のラジャーは、アマンダという少女の空想上の友だちです。ある日アマンダがいなくなってしまったために、ラジャーはまもなく消えてしまう運命に陥ってしまいます。大切なアマンダと再会するため、ラジャーは冒険を始めます。
このタイトルで、イマジナリーな友だちが消えてしまうというあらすじなので、しめっぽい展開が予想されます。もちろんそういう要素もありますし、レイゾウコのエピソードなどは泣かせます。しかし、この作品の魅力の重点はそこではなく、子どもの空想の世界の楽しさをみごとに再現しているところにあります。
洋服ダンスのなかから現れる自分だけの友だち。木の下に掘った穴が宇宙船になったり、熱気球のゴンドラになったりといった空想遊びの愉悦。アマンダと別れたあとも、オッドアイの不思議な猫に導かれてパートナーを失った〈みえないお友だち〉が集まる図書館に行き、ピンクの恐竜やテディ・ベアや蓄音機に手足が生えた化け物などと仲間になるといった、ワクワクする展開が続きます。さまざまなアトラクションでもてなしてくれる遊園地のような作品になっています。
ところで、遊園地に欠かせないアトラクションといえば、ホラーハウスです。この遊園地の一番のみどころは、実はホラーハウスなのです。
はげ頭にサングラス・赤ヒゲの男と、白いブラウスにくすんだ色のジャンパースカート姿の黒髪の少女、〈みえないお友だち〉を捕食するふたり組の化け物が現れて、物語を引っかき回してくれます。とくに、いつも無表情な黒髪少女の威圧感がおそろしく、雷で停電しているときに稲妻の光とともに突然出現したり、「海藻を丸めたような冷たい手で」つかんできて「死の息」を吹きかけてきたりと、身の毛もよだつ場面がたくさん。こいつからは絶対に逃げ切れそうにないという絶望感を味わわせてくれます。
挿絵はエミリー・グラヴェットが担当しています。ケイト・グリーナウェイ賞を2度も受賞しているだけあって、物語の流れにうまく溶けあったイラスト・デザインの妙は特筆に値します。黒髪少女の恐怖感を盛り上げるために効果的に配置された闇が、読者の肝を冷やしてくれます。