- 作者: 染谷果子,HIZGI
- 出版社/メーカー: 小峰書店
- 発売日: 2016/09/24
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
おいでなさいまし。だれもおりませんことよ。わたくしと、あなただけ。さあ、聞かせてくださいましな。話したいことが、おありでしょう? うふっ。
新任の養護教諭という設定の正体不明の妖怪奇野妖乃(あやしのあやの)先生が、悩みを抱えた児童に副作用つきの妖怪アイテムを投与するという話。
奇怪なお嬢様言葉を使いこなす妖乃先生のキャラクターが楽しいです。妖乃先生の目的は子どもたちの「やわらかな心」を収集することです。なので、基本的に子どもの悩みを解決してやろうという親切心は持っておらず、行動原理は愉快犯のそれです。妖乃先生は学校に通った経験がなく、ただ人間ごっこ・教育者ごっこができるのが楽しくてたまらないようです。「うふ、我ながら教育者らしいセリフですこと」とか「あら、教育者らしからぬ発言でしたかしら。でもたまには、本音もよろしいですわよね」とかいった無責任発言が、彼女の得体の知れなさを印象づけます。
妖乃には、子どもどうしで遊んだり、けんかをした経験がない。学校には行けなかったし、他人がこわかった。だけど、いや、だからこそ、あこがれた。むきだしの、やわらかな心に(p173)
第1話で妖乃先生は、ダンスのうまい親友に嫉妬する女子から嫉妬の火種が具現化したニワトリを奪い取ります。女子はすべての悩みから解放されて涅槃の境地に至り、「もう、なにも、ないよ。」で締めくくられるハッピーエンド。この第1話で、妖乃先生はかなりたちの悪い妖怪ではないかという疑惑を、読者は植え付けられることになります。
第3話は、同調圧力の比喩としてメトロノームの同期現象を使った作品で、かなり怖いです。擬音が効果的に使われていて、メトロノームのリズムで幻想世界に引きこんでいく技巧がうまいです。
最終的に妖乃先生の思惑に関係なく子どもたちは勝手に育っていって、妖乃先生の方も心を奪い損ねたことにさほど執着していないようなので、結果だけをみれば妖乃先生は悪い妖怪ではないようにみえなくもありません。しかしその真意はまだよくみえないので、今後の活躍が気になります。
HIZGIによる、適度にハイセンスで適度にバッドセンスなダークkawaiiイラストも魅力的です。