『ひいな』(いとうみく)

ひいな (創作児童読物)

ひいな (創作児童読物)

バーの、紫色に光る題字が目を引きます。
寂れた駅に飾られ、ほとんど人から顧みられない雛人形の物語。官女のタエはこれ以上零落しないように、女雛の濃姫雛人形の本来の役割を果たせと迫ります。雛人形の本来の役割って……。
人間の身代わりになるように迫るタエと、「いーやーじゃー」「ムリじゃ、ムリムリ」とだだをこねる濃姫の主従コントが楽しいです。なんやかんやあって濃姫と契りをかわすことになった小学4年生の女の子由良は不幸体質で、川に落ちたり釘を踏んだり。その痛みの大部分は濃姫が引き受けることになります。
誇り高い濃姫が由良を見守るために憑依するのはハエ。ハエは身体能力が高くどこにいても怪しまれないので憑代としては優秀なのですが、ハエたたきを持った人間に追いかけられたりといったひどい目にもあわされます。中盤までは濃姫の受難っぷりに笑わせてもらえます。
由良の方は家庭にいろいろ事情を抱えていて、中盤からは雛人形を介した家族再生の物語に発展していきます。
基本的に物語はドタバタだけど、どこかもの悲しさもあるところ、往年の児童向けユーモア小説のような味わいで好ましいです。
ただし、人格を持ったひな人形が人間に奉仕する存在として設定されていることと、「必要とされて、愛されることで、満たされる。人も、人形も、同じ」という共依存的な思想は、若干危ういように感じられました。