『ジョージと秘密のメリッサ』(アレックス・ジーノ)

ジョージと秘密のメリッサ

ジョージと秘密のメリッサ

クローゼットに秘密を隠している子どもの物語です。主人公が隠しているのは、女子向けのファッション雑誌。主人公はみんなから男子だと思われていますが、自分も雑誌に出ている女の子のような格好をして、その仲間に加わりたいと願っていました。学校でおこなう『シャーロットのおくりもの』の演劇でシャーロット役を勝ち取ることで自分が女であることを周囲に認めさせようとしますが、さまざまな困難にぶちあたります。
シャーロットのおくりもの

シャーロットのおくりもの

多数派の善意は少数派にとっては暴力でしかないということが、この作品を読むとよくわかります。学校の先生は「あなたは、きっとすてきな男性になれるわ」と、感受性の鋭い主人公を褒めます。母親は子どもがなにか悩みを抱えているらしいことを察して相談にのろうとしますが、「なにがあっても、ママに話してだいじょうぶよ。(中略)あなたはいつまでも、わたしのかわいい息子よ。それは絶対変わらないわ」と、事情を知っている読者からみれば最悪の発言をしてしまいます。
がさつなようで気のいい兄のスコットや、女子の親友のケリーの存在は救いになっていますが、それでもなかなか本質的な問題は理解されません。スコットは主人公が隠しているのは"やらしい雑誌"だと早合点して、母親には秘密にすると約束します。ケリーは悩んでいる主人公の助けになると思ってフェミニズムの話をしてあげますが、これも的外れです。
主人公は自分が女であるということには迷いを持っておらず、医術的な措置を受けたいというはっきりとした希望を持っています。物語の序盤でテレビに出ている女性の「わたしはトランスジェンダーの女性で、わたしの足のあいだになにがあるかは、わたしとわたしの恋人以外の人には関係ない」という発言を出すことで、作品のPC的立場も早い段階で明確にしています。そのため、いかに自分が自分であるということを身近な人たちに認めさせるかというところに、物語の焦点は絞られます。あれもこれもやろうとせず、シンプルに物語の道筋を打ち出したことが、作品の成功の大きな要因になっています。
小説ならではの演出で主人公を祝福したラストシーンは、解放感に満ちていて読者の心を強く揺さぶります。
このようなテーマの優れた児童文学はまだまだ少ないので、小中高の学校図書館にはぜひ入れておいてもらいたいです。