『ネコカブリ小学校 校長先生恐竜島のぼうけん』(三田村信行)

ネコの小学校で巻き起こる騒動を描いた「ネコカブリ小学校」シリーズの第8弾。のびのび教育派の校長先生とびしびし教育派の教頭先生が職員会議で論争をしているところに大地震が起こり、教職員たちは約6500万年前の恐竜の時代の火山島にタイムスリップしてしまいます。
刊行は1997年。大地震が起きたり、教職員のなかに「ウグイス幸福教」という宗教の信者がまぎれこんでいたりと、時代を反映した世紀末感のあるモチーフが投入されています。
教育とは未来を指向する営みです。しかし、まもなく隕石の落下によって滅亡してしまう運命のこの時代の恐竜たちには、未来がありません。この状況にどう立ち向かうのか、校長先生たちは教育者としての立ち位置を問われることになります。
草食恐竜のパルクソサウルスと友だちになった校長先生は、職員会議での意見を翻し、恐竜の子どもたちにびしびし教育を施すべきだと主張します。教頭先生のほうは自由にさせるべきだと論陣をはり、あろうことか恐竜たちを従えてパルクソ団という暴走族を結成してしまいます。もっとも極端な行動に出たのは「ウグイス幸福教」の信者であったねこ桜うば子先生です。ねこ桜先生は自らが教祖となり「ネコザクラ教」を開き、信者の恐竜たちに心やすらかに死を迎えるように説きます。
終盤は、肉食恐竜ドロマエオサウルスとの戦争が起こります。ここで、校長先生が暴走したほかの先生たちをうまく利用して危機を脱する展開は、非常に楽しいです。しかし、この目先の危機により、死という絶望を前にした教育という重いテーマはとりあえず棚上げされてしまいます。いや、むしろ、このような答えのでない観念的な問いは、目先のことに専念してみないふりをするのが現実的な対応なのだということなのかもしれません。