『封魔鬼譚1 尸解』(渡辺仙州)

封魔鬼譚(1)尸解

封魔鬼譚(1)尸解

渡辺仙州による北宋ゾンビSFです。主人公は超人的な記憶力を持つ天才少年李斗。豪商の第二夫人の息子で、正妻の子である弟との跡目争いで面倒くさい立場になっており、家出しようかと悩んでいました。町中では死んだはずの人間が人を襲うという事件が起きていました。李斗も被害にあってあっさり死亡、ゾンビ化(?)してしまいます。
李斗はゾンビ現象を、仙人が霊胎となって肉体の外に出る〈尸解法〉のようだと考えます。しかし、未知の寄生生物を利用した強化兵士をつくる実験が事件の背景になったことがわかり、物語はSFの様相を呈してきます。また、死体から人格のコピーを生成したらそれは本人になるのかという、SF的な問題も浮上していきます。
尋常でない博学さを背景に、中国ゾンビや東洋の導士と西洋の錬金術師の対決といった大ボラを展開する豪腕は、渡辺仙州ならではです。
キャラクターの造形もおもしろいです。味方になる少女道士の花蘭は、奸計で敵をはめたりピンチになったらを自分を巻き込んだ李斗を呪い殺してやるとわめいたりする考えが読めない危険人物で、読者をおびえさせてくれます。李斗と同じくゾンビにされてしまった少年楊月はすっかり性格がひねくれてしまってトリックスター的な暗躍をするようになり、こちらも予想しがたい行動で楽しませてくれます。
元は2001年の第1回エニックスエンターテインメントホラー大賞で佳作をとり出版に至らなかった作品ですが、時間がかかっても優秀な娯楽作品が世に出たことは喜ばしいです。