『七時間目の怪談授業(新装版) 』(藤野恵美)

七時間目の怪談授業(新装版) (講談社青い鳥文庫)

七時間目の怪談授業(新装版) (講談社青い鳥文庫)

七時間目の怪談授業 (講談社青い鳥文庫)

七時間目の怪談授業 (講談社青い鳥文庫)

オカルト現象を楽しく語りつつ科学リテラシーに目を向けさせる作風で00年代児童文学に大きな成果を残した「七時間目」シリーズの新装版が刊行されることになりました。第1巻の『七時間目の怪談授業』に続き、第2巻『七時間目の占い入門』第3巻『七時間目のUFO研究』も2017年中に刊行される予定になっています。
期限内に転送しないと呪われる呪いのメールを受け取ったはるかは、そのケータイを学校の先生に没収されてしまいます。はるかは事情を先生に話しますが、先生は呪いをまったく信じず、取り合ってくれません。それでも抗議を続けると、先生に「こわい」と言わせるような怪談をクラスの誰かが披露できれば返すという条件を与えられます。こうして、放課後の怪談授業が始まります。
子どもの考える怪談に対する先生のみもふたもない対応が笑えます。自分には霊感があってオーラがみえるのだと吹聴している女の子に対しては、視力が落ちているから眼鏡を買えという、まったく正しい教育的指導を行います。
怖い話を考えるうちに、はるかの興味はお話を作ることやお話で人の心を動かすことの楽しさに移っていき、呪いのメールへの恐怖は次第に薄れていきます。「こわい」を「たのしい」に変換する手つきがみごとです。こうした構成で、さりげなく合理的に物事を考えることの楽しさに子どもを導いていきます。
そして、「たのしい」に導いたあと最後に本当に怖いものを子どもに突きつける容赦のなさも、この作品の魅力です。あまり語られていませんが、死の恐怖を直截に語っているところが、「七時間目シリーズ」の児童文学として大きな成果です。『怪談授業』におけるそれはまだ「他人の死」ですが、第3巻『UFO研究』では、「自分の死」という本質的な問題に踏み込んでいきます。
00年代児童文学最高の収穫のひとつであったこのシリーズが、新装版の刊行を機にさらに読者を増やすことを期待します。
以下、新装版の修正点について簡単に触れておきます。
新装版と旧版を手に取ってみるとすぐにわかりますが、ページ数が30ページほど減っています。本文はかなり削られています。漢字も新装版の方が開かれているので、より低学年の子どもにも読みやすいように配慮するという方向で改稿されているものと思われます。
内容に関わるような大きな変更点はありませんが、宿題のページ数が変わる*1といったような意図が予想しにくい細かい改稿もあり、相当熟慮して改稿したのであろうことがうかがわれます。
新装版では2巻の主人公のさくらがはるかの塾の友達であったという設定が追加されているので、そこに関する加筆がいくつかあります。
新装版74ページあたりの、学校図書館で怪談をよく読んでいる子を見つけるシーン、旧版ではニューアーク式の貸し出しカードを手がかりにしていましたが、ここが修正されています。この貸し出し方式はプライバシーの観点からいまでは不適切であるとされているので、この修正は妥当でしょう。

*1:新装版では10ページ。旧版では「四三ページから四六ページ」だった塾の宿題が、新装版では「二十六ページまで」になっている。