『ぼくのとなりにきみ』(小嶋陽太郎)

ぼくのとなりにきみ

ぼくのとなりにきみ

「朝日中高生新聞」2015年10月4日号から2016年3月27日号に連載されていた作品。中学1年生3人組が古墳で偶然見つけた暗号を手がかりに宝探しをする話です。と、物語を大枠だけを紹介すると冒険ミステリのように誤解されてしまいそうですが、実際語られるのは地味な日常のエピソードの集積です。その地味さが実によいあんばいなのです。
主人公のサクは、いままであまり関わったことがなかったけど一緒に暗号を解くことになったチカのことがだんだん好きになってきます。でもなかなかあだ名で呼べなかったり、勉強を教えると物覚えの悪いチカにいらだってしまったりと、微妙な感情の揺れをみせます。
サクが振り返るちょっと昔の思い出も味わい深いです、宝探しのメンバーである親友のハセとの小学校時代のあれこれとか、低学年のころ才能がないのに元水泳選手の父親に水泳を習わされていていやだったことか。中1という現在の年齢と小学校時代の距離が近いようで遠くて、その距離感が切なさを感じさせます。
宝探しグループ以外で魅力的なキャラクターは、サクが所属する美術部の竹丸先輩です。あまり絵がうまいわけではないけど、好きな文房具の絵ばかり描いている変わり者の先輩です。キャンバスを張るが好きでキャンパスを張って剥がすのを繰り返すという謎の作業の楽しさをにこにこしながら教えてくれます。しかし、こんないい先輩がいるのにサクはすぐに幽霊部員になってしまいます。気の合う人がいても集団から離れてしまうこともあると、まあそんなものだよねというリアリティのあるエピソードです。
サクの名は「正太郎」というちょっと古風なものでした。そこに「ハセ」というあだ名が並び、さらに山にある古墳を探索しているので「山中」というワードも出てくるので、ハカセのことが思い出されるなあと考えながら序盤を読んでいました。すると、三人組が結成されたときに「なにかをするときはだいたい三人組って決まってんだ。ズッコケ三人組しかり、ハリー・ポッターしかり」とハセが口走る場面に遭遇しました。こうなるともう、ハカセのことを意識してこの設定がつくられたとしか思えなくなります。サクは勉強はそこそこできるけどこれといった取り柄のない子で、ちょっと考えすぎてしまうハカセ的な心性を持っています。この作品は、ハカセ(及びハカセに肩入れするような心性を持った子ども)に捧げられているのではないでしょうか。