『吸血鬼の島』(江戸川乱歩)

光文社の少年誌「少年」に1954年から掲載されていた江戸川乱歩*1の「少年探偵団」シリーズ短編が、初めて書籍化されました。これが、今までみたこともないような怪人二十面相や少年探偵団に対面できる、驚愕すべき本になってます。
はじめに収録されている「吸血鬼の島」は、イースター島の近くの無人島で立ち往生している二十面相から明智探偵に救援依頼の電報が届くという、信じがたいシーンから開始されます。ふつうだったら罠を疑うところですが、二十面相はガチで怖がっていて、ポケット小僧とこのようなやりとりをします。

「おれは、もう、宝なんかいらん。こんなおばけの島はまっぴらだ。」
二十面相は、べそをかいています。
「なにいってるんだ。おばけにばけて、いつもぼくたちをいじめていたくせに……。」と口をとんだらしたのは、ポケット小僧くん。
(p24)

イースター島〉〈ロンゴ・ロンゴ〉〈吸血鬼〉〈ムー大陸〉と、当時の子どもが熱狂したであろうオカルト用語が惜しげもなく繰り出された、贅沢なオカルトSFになっています。
その他の作品も、催眠術やミイラ・宇宙人・ネッシーなど、昭和の中頃から日本で流行したのであろうオカルトネタがたくさん盛り込まれています。催眠術をかけられて自分は空を飛んでいると思いこんで手を広げて部屋の中をふらふら歩くノロちゃんの姿の、笑えること笑えること。
かと思えば、二十面相が誘拐した人々を水棲人に改造して海底牧場で強制労働させようとするというトンデモSFがあったり、エグい本格ミステリがあったり、様々な趣向の作品を楽しめます。
イラストもそのまま収録されているので、当時の少年誌の空気を味わいながら読むことができます。「少年探偵団」シリーズのファンであるなら、この本を手に取らない理由はありません。

*1:名義は一応「乱歩」になっているが、編者によれば実際に執筆したのは別人であろうとのこと。