『悪役リメンバー』『脇役ロマンス』

悪役リメンバー (名作転生)

悪役リメンバー (名作転生)

脇役ロマンス (名作転生)

脇役ロマンス (名作転生)

古今東西の名作を下敷きにした短編アンソロジー。新しいところでは「人面犬」の都市伝説まで取り入れているのが幅広いです。
悪役・脇役に焦点が当たるので、必然的に恋に破れる話が多くなっています。死ぬべき犠牲者に恋をしてしまった死神の苦しみを描いた粟生こずえの「死神の春」は素直に泣かせますし、文字が報われるはずのない恋をする小島水青の「僕は月夜に目覚める」も、その設定をいかした皮肉な結末が涙を誘います。
小松原宏子の「ロザラインの憂鬱」は、ロミオの片思いの相手だったはずなのにまったく物語に関わらないロザラインに思いをはせつつ、恋愛に縁のなさそうな女性教師に恋の相談をするという残酷な遊戯に興じる中学生女子の話です。オチは容易に予想できますが、物語から疎外されているように思っている人間のやるせなさがうまく描かれていて、いい余韻を残します。
小松原宏子のもう1作「ディオニソス王の孤独」は、悲恋ではなくBLに読み替えています。文化祭の劇でガリ勉キャラの男子がメロス役、荒くれ者キャラの男子がディオニソス王を演じるという設定で、現実の出来事と演劇の内容をリンクさせてふたりの心を解きほぐしていく過程が読ませます。
森奈津子は、声オタの女子が清姫のようなストーカーになりそうになる「三次元なのに遠い人」と、いじわる役の姉を主人公とした「シンデレラの姉」の2作を寄せています。この2作からは、屈託を抱えつつも自分らしく生きていこうとする子どもを応援しようというあたたかさが感じられます。フェミニズム論客としても活躍している森奈津子らしい作品になっています。
ハーメルンの笛吹き男」を元にした「子供たち」と「羅生門」を元にした「カーニバル・ゲート」は北野勇作。子ども向けの短い作品であるだけにかえってオブラートが薄く、北野作品の根底にある怒りや絶望が表面に出ているように思えます。「子供たち」は大人に絶望して見捨ててしまう子どもがストレートに描かれています。「カーニバル・ゲート」はなんらかの破滅後の世界でロボットが跳梁する、いつもの北野作品っぽい話ですが、ヒトがちゃんといるんだというところが意外でした。「本当の物語のはじまりはここからだ!」というおもむきのエンディングは、『どろんころんど』を彷彿とさせます。