『なみきビブリオバトル・ストーリー』(赤羽じゅん子/他)

なみきビブリオバトル・ストーリー

なみきビブリオバトル・ストーリー

図書館のビブリオバトルに参加することになった4人の小学生の物語を、赤羽じゅんこ・松本聡美・おおぎやなぎちか・森川成美4人の作家がそれぞれ語る、競作の形式になっている作品です。
赤羽じゅん子が担当する第1話の主人公佐藤修は、本は読まないわけではないけど、どちらかというとスポーツやゲームのほうが好きな子でした。司書のすすめでビブリオバトルに出ることになり、大好きな『ヒックとドラゴン』を紹介しようかと思っていましたが、もっと大人っぽい本を読んでいるクラスの本好きの子の意見を聞いて心が揺れます。

「読みやすいし、楽しいけどな。ドラゴン同士のバトルって感じだろ? うーん。その、ビブリオバトルってやつにはどうかな? 大人の人もいるんだろ?」
「だけどさ、読んだあと、じんわり感動が残ったり、なにか考えさせられたりするほうが、本を読んだって気になるよ。あー、おもしろかったってだけじゃ、すぐ忘れちゃう」

わたしはここで、もし物語がこの子に『ヒックとドラゴン』を捨てさせる方向に進むのなら、本を壁に投げることを決意しました。幸いこれは杞憂で、修はつたないながらも『ヒックとドラゴン』への愛を語りました。
おおやなぎちかが担当する第3話の本田玲奈は、『バッテリー』の主人公原田巧への憧れを語ります。その際玲奈は、自分が作中にはほとんど登場しないクラスメートの女子矢島繭に自分を重ねて読んでいるのだと表明しました。あさのあつこは少年を神聖視する裏のミソジニーを批判されがちな作家ですが、こういう受容の仕方もあるのかと、新たな視点を得ました。
子どもの「好き」や伝えたい思いを尊重しているところが、この作品の美点です。もちろん伝えることは難しく、どの子も伝えきれないもどかしさに悩みます。そこで小手先のプレゼンの技術をレクチャーしようとせず、その難しさの前にたたずませることにとどめた節度も好ましいです。