『よみがえる怪談 灰色の本』(緑川聖司)

「灰色って、白と黒の間の、あいまいな色でしょ? だから、この世とあの世の間っていう意味があるんだって」

恐怖、再び。2013年の『色のない怪談 怖い本』で完結していたはずの「本の怪談」シリーズが、2冊の番外編を挟んで再始動しました。
今回の主人公は、夏休みに帰省していたお寺の墓場で、灰色の本を拾います。その本には死者を召喚する呪法が書いてあるらしく、父親の死に心残りを持っていた主人公は本の世界にのめりこんでしまいます。

「話を読んだものがまねをして、むこう側につれていかれてはじめて、怪談が完成するんじゃよ」

子どもが拾った本に書いてある怪異に巻き込まれるというパターンはすでに確立されています。やはりこの形式は物語への没入度を高めるので、どんどんページをめくらせてくれます。メタをこじらせているこのシリーズですからあえて不謹慎な言い方をすると、この本を読んだ子どもが実際に死者に会う呪法を試して怪奇現象に遭遇したならば、この作品はもっとも美しいかたちで完成されるのでしょう。
いろいろな実験をしている「本の怪談」シリーズですが、児童文庫という形式で出ているためか、まともな評論の俎上になかなか載せられません。実験的でありながら実際に多くの読者を獲得している貴重なシリーズなので、もっと語られるべきだと思います。
次回予告では、「本の怪談」シリーズと「怪談収集家」シリーズの新作が同時刊行されることが明かされています。同時刊行を利用してなにか仕掛けを仕込んでくるのでしょうか。「本の怪談」シリーズの次作のタイトルは『わたしの本』であると予告されています。『わたしの本』があるのならば、『あなたの本』もあり得るでしょう。今度はどんなメタな実験をしてくるのか、タイトルをみるだけで期待が高まってきます。