『こんとじいちゃんの裏庭』(村上しいこ)

こんとんじいちゃんの裏庭 (創作児童読物)

こんとんじいちゃんの裏庭 (創作児童読物)

他人に薦めにくい作品です。この作品を読んだ読者の9割くらいは気分が悪くなるであろうことが保証できるからです。だからこそ、あえて多くの人に読んでもらいたいです。
認知症の進んだじいちゃんと一緒に暮らしている中学生尾崎悠斗が主人公。ある日じいちゃんは車にはねられてしまいます。ところが、じいちゃんをはねた加害者の方がじいちゃんに過失があると主張して保険会社を代理に立てて損害賠償を請求してきました。納得できない悠斗は、警察や弁護士を頼って真実を知ろうと奮闘します。
法律に疎いふつうの人の無知につけこんで少額訴訟で稼いでいる悪徳保険会社に立ち向かうという内容で、きちんと調査すること、知識を蓄えることは大事だよねという話になっています。
と紹介すると、爽快な社会派児童文学のようにみえてしまうでしょう。では、なぜこの作品を読むと気分が悪くなるのか。それは、この作品に登場する悪が保険会社だけではないからです。
物語の冒頭、悠斗はなんの罪もないコンビニ店員に暴行をはたらきます。学校でも身勝手に先生に逆らって秩序を乱しています。主人公がこのような不良少年として設定されているため、単純な正義対悪という構図にはなりません。
悠斗だけでなく、その母親も異様です。事故にあったじいちゃんが気道切開されることになり家庭では処置できないので施設に入れることになると知った母親は、つい頬をゆるませてしまいます。もちろん、介護の過酷さを考えれば、これだけをもって母親を責めることはできません。しかし、息子の不良行為を冷笑的に眺める様子などとあわせて考えると、この母親は人格が破綻しているようにみえます。
認知症というどうしようもない現実、この保険会社のような違法とはされない悪におびやかされるどうしようもなさ。子どもは大人にいいように騙されてしまうというどうしようもなさ。さまざまなどうしようもなさをみもふたもなく描きつつ、身内にある悪までも描いてしまっています。どうにも割り切れない物語で、読者の心をざわつかせます。問題作といって差し支えないでしょう。