「タイムストーリー」第2期(日本児童文学者協会/編)

時間をテーマにしたアンソロジーの第2期。収録作の中から面白かった作品をいくつか紹介します。

「五分間の永遠」乙一

500円の報酬で5分間友だちのふりをするという契約をする小学生の話。話の収め方は穏当なのですが、いじめの描写がリアルでとてもいやな感じです。日常の中に悪意は偏在していて消えることはないという、乙一らしい世界になっています。

「白い貯金箱」松田青子

時間を五分間ずつ貯蓄することができる不思議な貯金箱の話。苦労と報酬のギャップの不条理感がおもしろいです。
はじめに乙一、2番目に松田青子。この配置から、この巻で読者を精神的に殺そうという編者の強い決意が透けてみえて、戦慄させられます。他の作品はなぜか、「選ばれない」ことの痛みを描いた作品ばかりになっていてます。きわめて読後感の悪い作品集になっているので、広く読まれますように。

「白い羽根」樫葉正之

小夜という少女が朝に鉄道自殺(?)を目撃しますが、線路に落ちたはずの少女は消失してしまいます。放課後小夜は旧家のお嬢様の綾のお屋敷にお泊まりに行って、白うさぎの登場する不思議な夢を見て、いつの間にか緊迫感のある百合トライアングルが形成されます。よくわからない奇妙な味わい深さのある作品です。シリアスな背景があるのに、小夜が空気を読まず座布団を10枚以上重ねてその上に座るという子どもっぽい遊びを執拗に繰り返すところに、この話の闇と光が隠されているような気がするのですが。

「メンテナンスの日」後藤みわこ

この巻は、現代のSF児童文学界の支柱である後藤みわこをトリに配置して、SF色の強い公募作品を並べた、SF短編集になっています。「メンテナンスの日」は、懲罰ボランティアで書庫の整理をすることになった少年と55年も本を整理しているという老婆の出会いを描いたポスト終末SFです。失われたものをリリカルに描き上げる手練れの技を堪能できます。

「金曜日のスパゲティ」加藤純子

地味でぼっちな語り手と、スタイルがよくて大人びている玲子さんが、調理実習で同じ班になったことをきっかけに距離を縮めて行きます。中学2年生の秋という弛緩した空気の中で展開されるピリピリした人間関係の緊張感の妙がうまく描き出されている、とても雰囲気のよい百合短編です。