『ひかり舞う』(中川なをみ)

ひかり舞う (teens’ best selections)

ひかり舞う (teens’ best selections)

時は戦国時代、明智光秀の家臣を父に持つ平史郎は、武家の息子として何不自由のない生活を送っていました。しかし、明智光秀は謀反を起こし父もいくさで死亡。平史郎と母と妹は当てのない流浪の身に落ちてしまいます。
中川なをみは、わずか7歳の平史郎に容赦のない試練を与え、トラウマを叩きこみます。一家がまず頼った父の縁者の家では、過剰な歓待を受けます。これにより居心地を悪くして自分から家を出て行くように仕向けるという、底知れない人間の悪意を知ることになります。流浪の果てに妹は衰弱して死亡。それも、仕事先でもらったまんじゅうを平史郎がひとりじめして食べてしまった日に死なせて、平史郎に生涯消えることのない後悔を植え付けます。やがて母は、いくさで死んだ武将の首を首実検のために洗う首洗いの仕事を始めます。とうとう平史郎は、変わってしまった母とも別れ、たったの8歳で独り立ちすることになります。
その後平史郎はたくさんの出会いに恵まれ、光秀の衣装係をしていた父の影響もあって縫い物師という職に就き、つらいながらも実りのある人生を歩みます。平史郎が出会う人々は皆多様で芯の通った生き方をしています。平史郎はまず鉄砲使いの集団雑賀衆の指導者タツの世話になります。自由だが世間との縁を持たない雑賀衆は、一般には「人間のくず」とみなされています。タツと別れた後は、芸術の道に殉じている絵描きの周二と行動をともにします。次はキリシタンの武将小西行長の娘マリアと知りあい、朝鮮にいくさに行っている行長を追い、後に行長の養子になる少女おたあと出会い、おたあの保護者役を引き受けることになります。
さまざまな文化を知り、立場も転変し、平史郎は人生の深奥を知っていきます。守られる側だった平史郎がおたあの保護者となると、以前はわからなかった守る側の気持ちが推察できるようになります。また、守る側だからこそ持つ闇とも対峙することになります。平史郎の流転を通して、ものの見方や人の見方の複雑さがわかりやすく説かれています。
非常に重厚で読み応えのある作品でした。