『怪談収集家 山岸良介と人形村』『まぼろしの怪談 わたしの本』(緑川聖司)

おくびさま きたら どこにげよ
おうちの 中に かくれましょ
それとも 山に にげましょか
いえいえ それは いけません
だまって おくびを わたしましょ

緑川聖司の人気怪談シリーズ「怪談収集家」シリーズと「本の怪談」シリーズの新刊が同時刊行。
『怪談収集家 山岸良介と人形村』は、山岸良介と少年助手の浩介が、怪異に人間の身代わりの人形を差し出すという習俗のある山奥の村に迷い込む話です。そういう村ですから、多くの人がそれっぽい怪談を語ってくれます。そうすると山岸さんは、対抗するように自分もこんな話を知ってるぞと語り出します。山岸さんがただの負けず嫌いのおじさんにみえてかわいいです。
猟奇的なわらべ歌の伝わる村に土砂崩れで閉じ込められてしまうという、絶対に連続殺人事件が起きそうなシュチュエーションになっています。怪談を語ることをメインにしながら枠外の限られた分量でミステリを仕上げるという離れ業を、緑川聖司はすでに『銀の本』で実現しています。この『山岸良介と人形村』も、なるほどそういう方向にいくのかという驚きのある作品になっていました。

まぼろしの怪談 わたしの本』は、作家志望の少女が怪談物語を書こうと奮闘し、やはり怪異に巻き込まれていく話です。
この作品は、怪談の制作を通した創作論になっています。少女は怪談に親しみすぎているため、もはやどんな本を読んでもラストの予想がつくようになって以前のように楽しめなくなってしまっていました。つまり彼女は、物語にはパターンがあることを知ってしまったわけです。ゆえに、創作するにしてもオリジナリティに悩んでしまうことになります。
彼女の友だちは、実に的確なアドバイスをします。まずは模倣をすればいい、既存のものを組み合わせればいい、そしてアレンジすればいいと。この友だち、ただの小学生ではなさそうです。
怪談を書き進めていくうちに彼女は、ノートに自分が書いた覚えのない怪談が書かれていることに気づきます。創作するということは、それまでの文化の蓄積と格闘することにほかなりません。物語を書く人にとっては、これほど怖い話はないのではないでしょうか。