『さよなら、おばけ団地』(藤重ヒカル)

さよなら、おばけ団地 (福音館創作童話シリーズ)

さよなら、おばけ団地 (福音館創作童話シリーズ)

「ゆうれいって、むかしの景色が見えているだけなのかもね。ずっと前、そこにいた人が、見えちゃったって感じで。」(p135)

2016年に正統派創作民話集『日小見不思議草紙』で単行本デビューし日本児童文学者協会新人賞をとった藤重ヒカルの単行本第2作。60年前にできて、いまではもう取り壊しの決まっている桜が丘団地を舞台として、不思議な出来事が展開される連作童話です。
最初にできた旧番地は人の住まない廃墟になっていて、子どもは近づいてはいけない空間とされています。40年前に新設された新番地も、取り壊しを待っています。
最初のエピソード「おくりっこ」は、もんしろちょうの化身の子どもたちが、バスに轢かれた仲間の墓を桜の花びらで作る話です。はじめから葬送の物語を繰り出して、読者に不吉な予感を抱かせます。
団地ともんしろちょうといえば、多くの人があまんきみこの「白いぼうし」を連想することでしょう。あのシリーズは、タクシーという移動する個室がこの世と異界をつなぐ境界となっていました。『さよなら、おばけ団地』では、滅びかけている団地自体が生と死のはざまにある境界として機能しています。
この作品では、時代の変化によってうわさ話が変質するさまも描かれています。団地をめぐる「情報」が作品の主人公であるといえそうです。そう考えると、「情報」を配達する存在である郵便屋さんが境界を自由に行き来できる役割を担っていることに、重大な意味が隠されているような気もします。