『続 恐怖のむかし遊び』(にかいどう青)

続 恐怖のむかし遊び (講談社青い鳥文庫)

続 恐怖のむかし遊び (講談社青い鳥文庫)

伝統遊びをテーマにした怪談シリーズの第2弾。堅実な本格ミステリ志向、異様なまでの文学志向、そして百合趣味と、さまざまな方面で1作ごとに信頼感を積み重ねてきているにかいどう青、今回もまた期待以上の成果をみせてくれました。4作の短編が収録されていて、4作通しての仕掛けもありますが、特にインパクトの強かった第1話の「あの子がほしい」と第2話「おさなななななななじみごっこ」を紹介します。
「あの子がほしい」の語り手原田栞には、名前が似ている田原沙織という幼なじみがいました。サオリは美人で文武両道で人望もある完璧超人で、シオリは平凡な女子だったので、シオリはサオリに憎しみと憧れの入り交じった感情を抱いていました。さて、シオリはクラスの秩序を守るために、特異なシステムを構築していました。それは、〈あの子がほしい〉の遊びで犠牲者を決め、その子を一定期間いじめの被害者にするという当番制の仕組みです。

「サオリになりたくて、サオリがほしかった。大好きで大好きで、そして大嫌いだった。ずっと。」

多くの人はこの設定を聞いて、幾原邦彦のアニメ作品『ユリ熊嵐』を連想することでしょう。「あの子がほしい」も、『ユリ熊嵐』に比肩する至高の恋愛物語になっています。ただし、断絶の壁を越えすべてがとけあうというかたちでの恋の成就は、愛し合うふたりからすれば極上のハッピーエンドですが、傍からみればバッドエンドとも解釈できます。
第1話第2話の怪異は主人公に物理的危害を与えず、むしろ利益を与えているようにもみえます。それだけに、怪異が静かに主人公を精神崩壊に追いこむさまが恐怖を誘います。たとえばシオリは、なかなか帰ってこない母親が冷蔵庫の中に入っているのではないかと想像したりします。

お母さんが冷蔵庫の中にいるわけない。そんなに広くない。人間が冷蔵庫に入れるわけない。
ああ、でも、小さくすれば入らないこともない、か。
小さくすれば?
小さくすればって?

この狂気のエスカレートのさせ方がたまりません。
そういう意味では、第2話の「おさなななななななじみごっこ」はより洗練されています。ひ弱な男子のあっくんと、いつもあっくんを守ってくれる幼なじみのリョウちゃんの物語です。リョウちゃんがイマジナリーな友だちであることはタイトルから明らかなので、そこは恐怖の構成要素としてはあまり重要ではありません。
この作品では会話文がカギ括弧でくくられておらず、その代わりフォントを変えることで会話であることを示しています。それも、話者ごとにフォントを変えるという細かい仕掛けがなされています。この仕掛けにより、読者は否応なく文字というものを意識させられるようになります。そして、リョウちゃんの正体が露見しあっくんの語りが狂い出すと、文字も暴走するのです。
あっくんの耳元で、「うぃいいいぃいいいいいんんんんん」という異音がします。当然それもフォントが変えられています。その『ドグラ・マグラ』を思わせる異音をきっかけにあっくんの内言は壊れたレコードのようになり、同じひらがなが無数に繰り返されるようになります。
もはやここでの文字は、物語を語るための道具としての役割を逸脱しています。仙波龍英がその短歌で「ひら仮名は凄じきかな」と指摘しているように、文字そのものの持つ呪力が恐怖を演出しているのです。これがどれだけ恐ろしいものなのか、未読の方はぜひ本を開いて確認してみてください。
この第2話の文字の暴走を参照したうえで第1話に戻ってみましょう。50ページの文字のかたまりをみてください。やはり、思いをこめて手書きで書いたラブレターは、この上なく尊いものですね。