- 作者: 北野勇作
- 出版社/メーカー: キノブックス
- 発売日: 2018/09/01
- メディア: 単行本
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web上でも公開されている「使用上の注意」と題された序文には、こうあります。
この本には、すごく短い小説が130話入っています。読んでみると、なんだかもやもやしたり、すっきりしないと感じたりするかも。きちんとした解決や結末はありません。どういうことだったのか。このあとどうなるのか。読んだだけではわかりません。でも、小説はクイズでも試験問題でもないので、正解は必要ないんです。
正解があると人間は安心しますよね。逆に正解がないと言われると、落ち着かない。なんとなく不安になります。そんな気持ちを楽しむ。これはそういう小説です。
不安なんて、普通は嫌ですよね。でも小説でなら、そんな宙ぶらりんで頼りない気持ちを楽しむことができる。なぜ小説(そしてフィクション)にはそんなことできるのか。じつは、小説を書いている私にもよくわかりません。でも、小説の中の不安はなんだかおもしろい。それは知っています。
ちょっと子供には難しい楽しみかたです。
いや、本当を言うと、大人にだって難しい。
どうですか? 楽しめそうですか?
https://kitanoyu.hatenablog.com/entry/2018/08/24/235000
この挑発は、子ども読者に対する信頼の裏返しなのでしょう。
作中にある不安の質はさまざまです。第61話の自分が川を流れる話などは、粗忽長屋的な実存の不安。世界の蓋が開いたから気温が下がったという第38話などからは、なにか巨大なものや世界そのものに対する根源的な不安を意識させられます。第11話の痛覚のない魚の話や第68話の抜け穴の話、本書には収録されていませんがバケツリレーの話*1などは、時局への不安を背景にした痛烈な社会風刺にもみえます。
収録されている作品のなかでいちばん好きなのはこれです。現象に対する不安。語り手に対する不安、あらゆる不安がねじれてぶっとんでわやくちゃになる感じがたまりません。
*1: