『四つ子ぐらし 1  ひみつの姉妹生活、スタート!』(ひのひまり)

四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート! (角川つばさ文庫)

四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート! (角川つばさ文庫)

第6回角川つばさ文庫小説賞特別賞受賞作。生まれてすぐに捨てられて施設で育っていた宮美三風の人生の転機は、小学校卒業直後に訪れました。国の福祉省による「要養護未成年自立生活練習計画」とやらで、子どもだけでひとつの家で生活することになったのです。しかも、同居相手はいままでお互い存在すら知らなかった一卵性四つ子の姉妹。「みんな同じでみんなちがう」頼れそうな長女の一花・明るい関西弁次女二鳥・おとなしい四女四月との新生活がスタートします。
「私……一人で生きていけるのかな。一人で生きて……ひとりぼっちで、死んでいくのかな」というどん底の精神状態からの大逆転。優しい姉とかわいい妹(みんな自分と同じ顔だが)ができて、三風は舞い上がります。

やった、やったあ……! お姉ちゃんと、普通に話せたっ。
優しくて、たのもしいお姉ちゃんの、となりの部屋になれた!

という調子で、あらゆる瞬間が感動の嵐になります。中学校の入学式に家族が立ち会っているというだけのことでも、天涯孤独だった三風には特別なこと。うれしさを素直に表明する三風の言葉は非常に好感度が高いです。
第1巻はひとりだけなかなか打ち解けない四女の問題に向き合って終了。オチで新生活がさらに楽しくなりそうな要素を付け加えてくれました。次巻を読みたいと十分に思わせてくれる内容だったので、シリーズものの第1巻としては上出来です。花鳥風月の四姉妹の今後が期待されます。
さて、この作品はとてもかわいくてハッピーな話なのですが、よく読むと不穏な要素も見え隠れしています。たとえば、一卵性なのに生育環境の違いから一目見てすぐわかるような体格差が生じているとか、残酷な現実も描いています。それぞれの詳しい生育歴は明らかになっていません。元気な次女がデパートで家族連れを見て表情を曇らせる場面などは、過去への不安を煽っています。
四つ子はみんないい子たちなのに、登場する大人はうさんくさい人物ばかりです。誘拐犯はもちろんのこと、「要養護未成年自立生活練習計画」を進めている国のえらい人が怪しいことこのうえない。この計画に大企業がからんで多額の寄付をしているという癒着構造も心配ですし、姉妹への「君たちはもう一人じゃないんだから」というはなむけの言葉も、「だから国は君たちを見捨てるよ」という含みを感じさせます。

夜カフェ(1) (講談社青い鳥文庫)

夜カフェ(1) (講談社青い鳥文庫)

青い鳥文庫での倉橋燿子の新シリーズ「夜カフェ」と比較して、令丈ヒロ子が次のように論じていました。
民間がつくりきちんとした大人も関わっている「夜カフェ」は、子ども食堂定時制高校のような、血の通った人間の温かみが感じられる居場所になりそうです。それと比べるとこっちの国主導の「要養護未成年自立生活練習計画」はよりディストピアみが感じられるのですが、考えすぎでしょうか。
おそらく、第2巻になればシリーズの方向性が決まってくるはず。姉妹には幸福な未来が待っていてほしいのですが、さてどうなることか。