『わたしの家はおばけ屋敷』(山中恒)

わたしの家はおばけ屋敷 (角川つばさ文庫)

わたしの家はおばけ屋敷 (角川つばさ文庫)

幽霊屋敷で魔女と (山中恒よみもの文庫)

幽霊屋敷で魔女と (山中恒よみもの文庫)

1997年に理論社から刊行された『幽霊屋敷で魔女と』が、装いを新たに角川つばさ文庫に登場。
小学4年生の宮森マイは、母を早くに亡くし、父も多忙でひとり暮らしをしていたため、ずっとおばあちゃんとふたりで暮らしていました。しかしおばあちゃんが亡くなり、ちょうど再婚することになっていた父と新生活を送ることになります。新しい母はヒロコという美人で、連れ子のシュウも母似のイケメン。でも、ヒロコは魔女ではないかという疑惑が持ち上がってきました。おばあちゃんの幽霊に守られながらも、マイの日常は不穏なものになっていきます。
生首が飛んだりステッキで額をかち割ったりと、派手に血しぶきの飛ぶホラーになっています。しかしホラーとしてのこの作品の主眼はそこではありません。それよりも、サイコホラーとしてなんとも薄気味悪い作品になっているところが、この作品の魅力です。結末の気持ち悪さは最高です。
魔女は直接的な暴力よりも、人心を操るいやらしい悪行を得意としています。シュウはマイに、ヒロコが真夜中に「私は魔女なのよ」とささやくという奇行をしていたことを告白します。ヒロコはヒロコで、シュウのいないときにマイにシュウはそういう妄想を話すような変な子だけど許してやってくれと吹き込みます。また、マイにクラスメイトが本屋で万引きをしている幻覚を見せたかと思えば、シュウにはマイが万引きをする幻覚を見せたりします。巧みに人心を惑わる魔女の悪辣さは、相当なものです。サイコホラーの手法を使いながらも、子どもたちの感情の行き違いの描き方は90年代の児童文学・YAの空気感をうまくつかんでいるように思えます。90年代にはすでに大御所であった山中恒が平然とこのような斬新な児童文学を出していたということ。山中恒がいかに偉大な作家であるかということがよくわかります。
『ママはおばけだって! 』や『頭のさきと足のさき』など、山中作品には子どもを支配し飲み込む不気味な母親が登場する作品群があります。『わたしの家はおばけ屋敷』も、その系譜のひとつと捉えてよいでしょう。ただ、継子という少し離れた位置から母-息子関係を眺めているというところは特異です。こうした観点からも、重要な作品であるといえそうです。