『学校へ行こう ちゃんとりん』(いとうひろし)

学校へ行こう ちゃんとりん

学校へ行こう ちゃんとりん

毎日 毎日、決まった時間に学校へ行く。これじゃあ、ありよりずっとはたらきもんよ。毎日 毎日、学校 学校。

現実逃避したいと考えるとき、人はどの方向を向くのか。それは、その人の特性やその時の状況によって変わるでしょう。この物語に登場する小3の女子ふたりは、上を向く派と下を向く派、正反対のタイプだったようです。
ひとりの女子は登校中になにげなくありを追いかけてしまいますが、思い直していつも一緒に登校しているもうひとりの女子を迎えに行きます。ふたりで話しているうちになんとなく倦怠感がやってきて、学校に行くのが憂鬱になってきました。もうひとりの女子は、ユーフォーにさらわれて学校をサボろうと提案し、奇妙な歌と踊りでユーフォーを呼び出そうとします。
ふたりは、空と地面のふたつの方向を見ています。人がふたりいれば、そこには現状に引きとどめる力も生まれるし、むしろ非日常への推進力にもなったりもします。この作品のそれぞれのページで起こっていることは、方向とそこへ向く力を表す矢印で簡潔に説明することもできます。
この作品はイラストとふきだし内の会話文でほとんど成り立っています。会話のなかでふたりの感情が動き、矢印が変化する様子を味わうのがこの作品の楽しみ方です。ふたりは特別深刻な悩みを持っているわけではありません。でも、一方がいつももう一方を迎えに行く立場にいることに不満を累積させていたり、現実逃避への温度差でふたりの性格の違いが露わになったりと、そこにある感情はささやかにみえるものの軽視はできません。
イラストも会話も軽やかですが、油断していると深い落とし穴にはまってしまいそうな底知れなさを感じさせる作品です。