『タイコたたきの夢』(ライナー・チムニク)

以前はパロル舎から出ていましたが、当然現在は入手不可。徳間書店によるチムニク復刊プロジェクト第2弾として、ふたたび世に出ました。
ある日ある町で、ひとりの男がタイコを叩きながら叫び出しました。

ゆこう どこかにあるはずだ
もっとよいくに よいくらし!

町の人々は男を捕らえようとしますが、タイコたたきは見つかりません。誰もタイコたたきの顔を思い出すことができず、「あいつ、顔なんてなかったぜ」という者さえ出る始末。やがてタイコたたきは疫病か呪いのように増殖し、タイコたたきたちは町の城壁から外の世界へとびだしていき、新天地を求めて当てのない旅を続けます。
はたしてタイコたたきたちとは何者なのでしょうか。善か悪かでいえば、少なくとも善の側にあるとはいいがたいようです。行った先々で戦闘や破壊、略奪を繰り返していますから。ただ、チムニクの独特の絵柄で描かれるタイコたたきたちの活動は、悪と断じるにはあまりにも魅力的です。人数の力と角材だけで兵器をつくったり巨大な船を建造したりする様子のパワフルさには圧倒されます。変革を求める人の欲望とそれを実現するための営み、善悪を超越した人間の業が描かれています。