『トリガー』(いとうみく)

トリガー (teens’best selections)

トリガー (teens’best selections)

中学2年生の音羽の目下の悩みごとは、真面目だった親友の亜沙見が姉の死をきっかけに変わってしまったことでした。とうとう亜沙見は家出をしてしまい、大人に隠れて亜沙見をかばおうとしていた音羽も巻きこまれてしまいます。
センセーショナルな出生の秘密で煽る手法は、やや古くささが感じられます。ただ、友だちのことを気遣うがゆえに悩みには踏みこまないとか、子どもに理解のある母親アピールがしたければ逆に子どものことはわからないというポーズをしなければならないとかいったこじらせ方には現代性が感じられます。
女子ふたりで現実逃避という物語の方向性は、同年に出たいとうひろしの『学校へ行こう』と変わりません。しかし、深刻性は異なります。女子がふたりいればひとりのときよりパワーアップしますが、いい方向に転ぶとは限りません。百合の暗黒面に踏みこんだのが、こちらの『トリガー』ということになります。
それは彼岸へ向かう道行きとなるので、児童文学に向日性を求める人からは好まれないかもしれません。人の心は関係性のなかであまりにも脆弱に揺れてしまうのだということを描いた暗い文学性は評価されるべきでしょう。このような作品も児童文学には必要です。