- 作者: にかいどう青,モゲラッタ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2019/02/14
- メディア: 文庫
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「恐怖のむかし遊び」シリーズ第2巻でにかいどう青は、文字遊びで恐怖を演出するという技を見せてくれました。その要素はこの本でも健在です。まず、目次のページですでに怖がらせてくれます。第1話と第3話、第2話と第4話のタイトルがそれぞれ対になっていますが、第2話と第4話の文字列の壊れ方がすさまじいです。
笑い女
いナいなイタいたい。
笑い男
痛いナ居たイない。
第2巻で視覚的に最恐だったのは、愛の言葉がみっしり詰まった50ページでした。第3巻で最恐なのは、似た文字がみっしり並んだ88ページです。古文の先生が黒板に「ゐ」の字を無数に書いたら怖かろうというところから、さらに文字列を崩壊させていきます。これはじっくり見ると本当に頭がおかしくなるやつなので、さっと読み飛ばした方がいいです。
第3巻では、二人称という実験もなされています。第4話はゲスな人物が語り手となる一人称小説ですが、突然「あんた」に呼びかけ、自分がいじめ被害者にやらせた罰ゲームの内容を予想させます。そして、「たぶん、あんたが思い浮かべたいちばんひどい罰ゲームが、それだから」といいます。これは、「あんた」(読者)をいじめの共犯者として強制的に巻きこんでしまう、非常に悪趣味な趣向です。
第2話は本格的な二人称小説になっています。「あなた」も信頼できない人物であり、「あなた」と呼びかける語り手の正体も不明。ひねくれた構造で怪談における二人称の可能性を検証しています。
佐藤春夫は「文学の極意は怪談である」と述べたそうですが、このシリーズを読むと児童向けに実験小説を書くならホラーがもっとも適したジャンルなのではないかと思えてきます。ただし、異常なまでの文学愛とセンスを持つにかいどう青でなければ、このような実験的なホラーを成功させることはできないでしょう。