『四つ子ぐらし 2  三つ子探偵、一花ちゃんを追う!』(ひのひまり)

四つ子ぐらし(2) 三つ子探偵、一花ちゃんを追う! (角川つばさ文庫)

四つ子ぐらし(2) 三つ子探偵、一花ちゃんを追う! (角川つばさ文庫)

第6回角川つばさ文庫小説賞特別賞受賞作のシリーズ第2巻。2巻にして第5巻までの発売日とおまけが予告されていることから察するに、1巻の時点でかなりの人気を獲得しているようです。
国の福祉省による「要養護未成年自立生活練習計画」で、生き別れの四つ子が子どもだけで生活するようになったという設定の話です。全員仲良くなって楽しい新生活が軌道に乗ってきたところですが、優しい長女の一花の様子がおかしくなります。妹3人はこっそり尾行して姉の秘密を探ろうとします。
同じ顔の3人が変装して探偵ごっこというシチュエーションが楽しいです。語り手三女の三風はいつもと違う姉妹の様子をみて「なんだかドキドキするよ」と、のんきな感想を述べます。冷静に考えると、自分と同じ顔の人間3人にストーキングされるというのはかなり怖い状況なんですけどね。なりすましとかし放題だし。
長女の抱えていた問題はシビアなものでした。自分はちゃんと大人になって働けるのだろうかという不安。子ども時代にこのような不安を持ったことがない人は、恵まれた立場の人です。子どもに与えられる環境は平等ではありません。家庭環境・身体的精神的な健康状態・人間関係資本など、さまざまな条件によって人生の攻略難易度は変わります。ですから、人はドロップアウトしても仕方ないのです。ドロップアウトした人は社会が支えればいいのですから。ただし、この国では政治も世間も弱者に厳しいので、結局社会の矛盾は弱者が孤独に抱えこまなければならないことになります。このシリーズ、かわいらしい見かけとは裏腹に実はものすごくエグい社会派児童文学なんですね。
語られる内容は深刻です。でもこのシリーズは、シリアスムードを吹き飛ばす空気の操作がうまいので、読み心地はとてもよくなっています。1巻のラストを思い出してください。もっともメンタルが弱そうにみえた四女四月が急に饒舌に語りはじめて、この子はオタク気質のギャグキャラだったということが判明しました。これで暗い空気が完全に払拭されて、さわやかな読後感を残しました。2巻でもその長所は生きています。現時点で表に出て姉妹に立ちはだかっている自称母の三下悪役ぶりが板についてきたので、これが登場するとやっていることは悪辣な割に雰囲気はギャグっぽくなってきます。そして、われらが四女さんが口を開くと一気に勝利モードに入るというこの流れ。2巻も穏やかな気分で読み終えることができるようになっています。
四つ子をめぐる闇は次第に明らかになってきました。このままの空気でシリーズを進めてもいいし、思いっきり鬱展開にしてもよさそうです。シリーズの今後がますます楽しみになりました。