『少女は森からやってきた』(小手鞠るい)

読書好きの小学6年生の美幸が、ニューヨーク州ウッドストックの森からやってきた転校生エリカと仲良くなる話です。あらすじの紹介に、これ以上の言葉を付け加える必要はありません。
この作品は三層の語りによって成り立っています。プロローグとエピローグは、大人になり学校司書になった美幸が語り手となります。美幸が学校図書館でかつての自分とエリカのような少女を見かけたことをきっかけに、過去の物語が始められます。ふたつめは、6年生の美幸による語りです。そしてもうひとつは、エリカから童話を書くようにとプレゼントされたノートに美幸が書いた、かたつむりとこじかの友情の物語です。
子ども時代の美幸の語りは、朴訥としていて率直なものです。その言葉の宛先は、エリカにのみ向いています。
大人の美幸の語りは、「世界中の子どもたちへ」と向けられています。この宛先はあまりにも抽象的で、本当に合っているのかどうか怪しく思えてしまいます。大人の美幸はまず、学校図書館であった少女をエリカそのものであると混同しているかのように語り始めます。このため、読者はエリカは実在する女の子ではなくイマジナリーな妖精のたぐいではないかという疑いを持ちながら読み進めることになります。大人の美幸の語りは大人にしては地に足のついていないものに感じられます。
この浮遊感のある三層の語りにより、ふたりの物語は純化されます。結果、ただひたすら情感に訴えかける作品となっており、破壊力が高いです。