『おばあちゃん、わたしを忘れてもいいよ』(緒川さよ)

おばあちゃん、わたしを忘れてもいいよ (朝日小学生新聞の人気連載)

おばあちゃん、わたしを忘れてもいいよ (朝日小学生新聞の人気連載)

朝日学生新聞社児童文学賞第9回受賞作。2018年10月から12月まで朝日小学生新聞で『おばあちゃん、わたしのこと忘れないで』というタイトルで連載されていたものが、改題されて単行本になりました。
小学5年生の辰子の家は、長唄の家元の家系。本来は父の幸輔が家元を継いでいるはずですが、先代家元の祖父が亡くなったとき父はまだ学生だったため当時の一番弟子が一代限りのリリーフの約束で家元になり、ずっとそのままになっています。一家の目下の悩みは、祖母のナヲさんが認知症になったらしいこと。言葉遣いが優しくどこか浮世離れした父(「キミマイ」のユッキーがそのまま大人になった感じ)は頼りなく、出版社で働いている母の理子が仕事を辞めて面倒をみるという案にも「理子ちゃんが仕事辞めちゃったら、困るよぉ。不安だよぉ」と泣きついて問題は先送りになってしまいます。
認知症は最近の児童文学では流行の素材なので、他の作品とどう差別化するかということが問題になってきます。歌舞伎の台詞のかけあいをすることでもとのしっかりした祖母に戻るという設定により、変身ヒーローもののような物語に仕立て上げているのがこの作品の特色になっています。さまざまな問題を長い人生で積み重ねた知識と行動力で解決していく祖母の活躍は爽快です。どこか懐かしさを感じさせるイラストも相まって、ギャグと人情と悲哀の配分がよい往年のユーモア児童文学のような読み味を楽しめます。それでいて、家元継承問題の落としどころには現代性もあるので、安心して読める作品になっています。