『トロイメライ』(村山早紀)

トロイメライ (立東舎)

トロイメライ (立東舎)

『春の旅人』に続く、村山早紀とげみのコラボ短編集第2弾です。
表題作「トロイメライ」は、日本児童文学者協会編の叢書「おはなしのピースウォーク」に収録されていたものです。温暖化が進み春にひまわりが咲き夏は死の季節になった未来の話。死者はその人にそっくりのロボットと入れ替わるようになっていて、主人公も亡くなった兄と同じ姿のロボットと生活しています。破滅に向かいながらも人とテクノロジーの力によるあたたかみのある世界を作り上げる手腕は、村山早紀ならでは。独特の味わいのあるジュヴナイルSF世界が構築されています。しかしやがて戦争が始まり、人間そっくりのロボットが戦場に駆りだされるようになり、世界の破滅は決定的になります。
主人公のクラスメイトの弘志くんはいつも本ばかり読んでいて、周りから「なにを考えているかわからない」と評されるような子です。でも、やはり本が好きな主人公は、弘志くんに共感を寄せます。「なにを考えているかわからない」というのが非難の言葉として成立するのはなぜなのでしょうか。人は常に本心をオープンにすべきという規範があるとするなら、それはおそろしいことです。でも、おそらくそういうことではないのでしょう。オープンにできる建前が本心であるかのようにふるまい、建前を本心にすりかえよという圧力なのでしょう。これをうまく利用すれば、人々が相互監視しあい非国民は特高に連れていかれるという世界を実現するのは、そんなに難しいことではありません。
『春の旅人』と同様、イラストの力を感じさせる本になっています。弘志くんの父親の「マッドサイエンティスト」のイメージイラストなんかは、かっこよさとうさんくささの配分が見事。一番いいイラストは、雛人形が主人公の最後の短編「秋の祭り」のラストに配置されているものです。本文に書いている内容からは逸脱していないのですが、動物の背後に読者の視点を置き中心となる光景を眺めさせることで、より物語の完結感を高めています。