『あの空はキミの中』(舞原沙音)

ポプラ社とエブリスタ共催のピュアラブ小説大賞で落選した女子野球小説。ラブ要素2割野球要素8割くらいの配分なので、いくらおもしろくても賞の趣旨にそぐわないということで落選にされたのは仕方ないでしょう。それでも拾われて書籍化されたのは喜ばしいことです。
物語のプロローグは、主人公の陽向の12歳の夏、少年野球の県大会の決勝。所属チームで4番を任されていた陽向ですが、女子だということで相手チームのエースはなめた球を投げてきます。それを陽向はバックスクリーンのホームランにします。これで相手投手も反省し、真剣勝負が繰り広げられますが、陽向のチームは敗北します。しかし陽向と相手チームのエースは、お互いを宿命のライバルと認め合ったのでした。
そして陽向は中3になり、転校先で相手チームのエースだった理央と運命の再会を果たします。しかし理央は全然気づかず、自分の宿命のライバルは強豪校に進学した3番だった男子だと思いこんでいるというボケっぷり。この最初からすれ違ってしまったふたりのラブコメが展開されます。
ラブ要素ももちろんおもしろいのですが、それより盛り上がるのは野球要素です。その学校はチームの人数もそろわないような状態でしたが、陽向にもブランクがあっていままでのように主砲の役割を果たすことはできません。そんななかで新たな戦い方を模索していきます。
ラブ的にはセカンドの陽向とピッチャーの理央のはずなのですが、実はもっとも熱いのは二遊間です。ショートは理央の弟でクソ生意気な青。女子と中1で身長が足りないというハンデを乗り越えて、みごとな連携をみせます。打順も前後しているので、攻撃面でも息ぴったりのプレーをみせてくれます。試合の場面では読者の頭から理央へのラブは完全に消え去り、この二遊間コンビの絆の強さに引きつけられてしまいます。
やはりポプラ社の主軸は、娯楽児童文学であるべきです。この作品は非常にポプラ社らしさを感じさせてくれる作品でした。どのくらいの人にニュアンスが伝わるかわかりませんが、野球でたとえてみたいと思います。ポプラ社の場外ホームランは、言わずと知れたズッコケやゾロリということになります。この作品は右方向にきれいに飛んだ流し打ちで、打者の走力的に三塁も狙えるところをあえて余裕で二塁で止まったという感じの貫禄のある二塁打ポプラ社はこういう作品をこそどんどん出してほしいです。