『こちら妖怪お悩み相談室』(清水温子)

こちら妖怪お悩み相談室

こちら妖怪お悩み相談室

第16回ジュニア冒険小説大賞受賞作。ぬらりひょんがボスを務めている妖怪相手のお悩み相談所で活動している小学6年生のリカの物語です。
導入部がうまいです。特に設定説明もなくいきなりリカが垢なめからの電話相談を受ける場面から始まります。そのなかでこの相談所にはマニュアルや研修もあることが明らかになり、ある程度きちんとした思想や手法を持ったうえでこの相談所が運営されていることがわかります。ところが、その相談内容がほぼ犯罪の指南。防犯カメラのせいで家屋に侵入しにくくなったという垢なめに、玄関の防犯カメラは偽物の可能性があるとか、窓にはカメラがないかもしれないから確認しろとか、かなり具体的に家宅侵入の手口を教えてしまいます。
導入部はそんな感じですが、相互理解や多様性がテーマになっていて、内容は至って真面目です。ただしボスのぬらりひょんは、妖怪のなかには問答無用で人間を食べるような危険なものもいると警告することを忘れません。配慮が行き届いていて、作者は誠実な人なのだろうなあということが伝わってきます。
ただ、そういうところに目がいってしまうということは、娯楽性で物語に没入させる力が不足していたということでもあります。この物語はお説教ありきでこしらえられたものなのだろうということが透けてみえてしまっています。導入部のレベルの娯楽性が最後まで維持できなかったのが惜しいです。