『穴の本』(ピーター・ニューエル)

穴の本

穴の本

暴力とはなにか、破壊とはなにか、それを絵本という形式でビジュアル的にわかりやすく表現してみせたのが、アメリカの絵本作家ピーター・ニューエル(1862-1924)が1908年に発表したこの実験絵本です。
最初のページ、トム・ポッツくんという子どもが拳銃を誤射し、時計と壁をぶち抜きます。その銃弾には異様な貫通力があり、ページをめくると台所のボイラーが打ち抜かれ、次はブランコの綱を破壊して乗っていた子どもが転落し、次は車に当たりガソリンが噴き出し、はては世界一周してあわやトム・ポッツくんに死をもたらすかという事態になってしまいます。銃弾による破壊が世界を変容させるさまを、読者はページをめくるごとに目の当たりにすることになります。
この本のぶっとばしているところは、本の真ん中に物理的に本物の穴をあけているところです。この穴をのぞきこむことによって、読者はその破壊力のすさまじさを実感することができます。そして、この穴が貫いてるものはなんかのだろうかと考えこんでしまいます。
訳者あとがきもユーモアにあふれていておもしろいです。穴あきだけにアナーキーとか絶対作者の意図にはない冗談も交えつつ、19世紀末・20世紀初頭の時代状況を見据えて作品を解読しようとしています。