『あやしの保健室4 二万回のトライ』(染谷果子)

あやしの保健室4 二万回のトライ

あやしの保健室4 二万回のトライ

子どもたちの「やわらかな心」を狙う自称新任養護教諭24歳奇野妖乃が今度赴任したのは、元ラグビー選手の校長が〈ひとりはみんなのために みんなはひとつのもくてきのために〉という目標を掲げている学校でした。つまり、理想で子どもたちを押しつぶす最悪の学校です。しかし、子どもの心を狩る悪い妖怪の妖乃先生にとっては、子どもにストレスを与える学校の方が好都合。妖乃先生ははりきって悪巧みをしますが、絶対に成功しないといういつもの展開が続きます。
オナラのかたちで表出する膨れ上がった悪意をスカンクにして虫取り網で追い回すも逃げられる妖乃先生、ハリセンボンのトゲのようになった不満をうっとりなでまわすも回収に失敗する妖乃先生。今回も、悪巧みに失敗してもめげずに幸福感に満ちた笑みを浮かべる妖乃先生の魅力が爆発しています。
不老不死に近い存在であることが露見してはいけないので、妖乃先生は人間の共同体に属すことはできず、1年ごとに転勤を繰り返さなければなりません。必然的に妖乃先生はアウトサイダーとなります。であるからこそ学校で苦しんでいる子どもの手助けができるというのは皮肉です。
共同体に守られない妖乃先生は、生きるための戦略を練る必要があります。今回は過去に因縁のある一族の末裔である校長と邂逅しますが、ここで妖乃先生は正面からの対決をしないという選択をとります。
1年おきに人間関係がリセットされ、絶対に目的を果たすことのできない妖乃先生は、一種のループものの主人公のようでもあります。アウトサイダーであるためにつながりも蓄積も得ることができないはずの妖乃先生が、実はなにかを生み出していたということが、この巻で明らかになります。このシリーズは、アウトサイダー生存戦略を描いた作品としても秀逸なものになっています。
「あやしの保健室」シリーズはこれで完結です。これだけの作品がたったの4作で終わってしまうのは大変惜しいです。が、3学期の終業式に妖乃先生が学校から立ち去るというパターンを繰り返した結果生み出された終幕は、それは美しいものでした。最高の終幕に立ち会えたことを喜びたいです。