『雨女とホームラン』(吉野万理子)

雨女とホームラン

雨女とホームラン

占いや迷信をめぐる連作短編集。占いが好きで路地にいる占い師に格安の1000円で占いをしてもらって大喜びする野球少年の話だったり、霊感アピールして人の気を引こうとする女子の話、あるおばさんが応援に来ると試合に負けるというジンクスで右往左往する野球チームの話などが語られます。
反オカルト児童文学ということで、藤野恵美の「七時間目」シリーズや渡辺仙州の「封魔鬼譚」シリーズの系譜に位置づけられます。問題の掘り下げや娯楽性の面では、先行作に及びません。ただし、吉野万理子の長所はいい意味でのゲスさ。愚かな差別者の心理をトレースするのがうまく、悪の描写には迫力があります。
この作品で起こる2番目にひどい出来事は、雨女であると噂される女子をクラス中で追いつめて、自主的に遠足を休むように仕向けた事件です。この事件を扇動した男子は、自分のしたことは合理的でみんなのためになったのだと信じて疑いません。差別とは善意によって生み出されるものなのだということを実にいやらしく描いています。こういった露悪性が吉野万理子の持ち味で、この作品でも遺憾なく発揮されています。
そして、この作品の最悪は、1000円占い師の正体が明かされるオチです。これで小学生から1000円巻き上げるのはまさに悪魔の所業。この作品の登場人物で最も邪悪なのはこの占い師であると断言できます。