『いえでででんしゃ、しゅっぱつしんこう!』(あさのあつこ/作 佐藤真紀子/絵)

12年ぶりのシリーズ新作。
冒頭が狂気に満ちていていいです。熱があって学校を休んでいるさくら子は、外で春の嵐が吹き荒れているのを聞いて、顔には目も鼻もなくギザギザの歯が生えている口だけがある首の長い怪獣が吠えているところを想像します。そして、昨日学校の図工の授業で空想の国を描くという課題を出され、みんなが笑っている国を描こうというアイディアを思いついたことを思い出します。しかし、いつの間にかいえでででんしゃのことを思い出して、その絵を描き始めます。
熱に浮かされたなかで様々なイメージが繰り出されます。語られているのは今のことなのか回想なのか空想なのか夢なのか判然とせず、読者も高熱にとりつかれたように頭がクラクラしてきます。
やがてさくら子は、助けを呼ぶしゃしょうさんの声に応じて、いえでででんしゃに乗ってみんなが笑っている『幸せ町』に出かけます。みんなが笑顔とか『ミッドサマー』かよとお思いのみなさんがお察しのとおり、こんな世界が理想郷なはずがありません。物語はディストピア探訪記となります。
ここからは、あさのあつこの本領発揮です。人を押さえつけるものに抵抗する闘争心をあらわにした、熱い物語が展開されます。