『ドーナツの歩道橋』(升井純子)

ドーナツの歩道橋 (teens’ best selections)

ドーナツの歩道橋 (teens’ best selections)

今月になって、衝撃的なニュースが流れてきました。厚生労働省が初のヤングケアラーの実態調査を始めることになったというのです。調査すらなかったということは、行政的には日本にヤングケアラーは存在しなかったということになるわけで、当然なんの支援もなかったということになります。
日本の政治は地獄ですが、児童文学はこの問題に早くから取り組んでいました。老人介護をテーマにした児童文学は近年たくさん出ていますし、身体的・精神的障害を持つ親や兄弟の世話をする子どもが登場する作品もいくらでもあります。この『ドーナツの歩道橋』もその系列の作品です。
祖母の介護で疲弊する高校1年生の麦菜の物語。麦菜の祖母に対する思いは、ぐるぐるめぐります。調子のいいときはそれなりに優しく祖母に接することができますが、最悪のときには「これで生きてるっていえるんだろうか?」「これを生きてるとカウントするのか」と思ってしまい、石原慎太郎レベルまで倫理観が後退してしまいます。
介護することで人は心理的にどれだけ追い詰められるのかという描写に迫力があります。麦菜は、「介護ってどうしてこんな五感を破壊することばかりなんだろう」と述懐します。排泄の世話だけだったら、それほど抵抗なくできてしまいます。しかしそこに必然的に付随することを許容できるかどうかというのは、大きな壁になります。そこを逃げずに描いた勇気には驚嘆させられました。