『保健室経由、かねやま本館。3』(松素めぐり)

保健室経由、かねやま本館。3

保健室経由、かねやま本館。3

第60回講談社児童文学新人賞受賞『保健室経由、かねやま本館。』の刊行が、今年
6月。2巻が8月で、3巻が早くも10月に出ました。新人賞決定時点から準備していたにしても、新人がこれだけのハイペースで量産し、しかももともと高かった質をさらにどんどん上げているというのは驚嘆すべきことです。
今回の主役は、穏やかな性格のため周囲から軽く扱われることの多いムギと、過去の失敗をバネにして完璧超人を演じているナリタク。しかし2巻と同じくムギがかねやま本館の禁忌破りをしてしまって追放されてしまいます。
ただし、2巻のアツの犯した紫色の暖簾くぐりと、ムギの犯した元の世界でかねやま本館の話をするという罪では、罰則が異なっていました。アツは瞬時にかねやま本館の記憶を失ったのに対し、ムギの方は記憶が徐々に薄れていきます。そのため、2巻は残されたチバがひとりで主人公を担当していたのが、3巻では別れた後もふたりが同等の主人公として並び立つことになりました。家出した姉を頼ってかねやま本館の謎に迫るムギと、かねやま本館に残って自分とムギの心を救う道を探るナリタク、それぞれの思いが物語を盛り上げていきます。
2巻同様、終盤の物語の加速度が尋常ではありません。記憶喪失はメロドラマでは鉄板の小道具ですが、その使い方がとてもうまいです。残りページ数の少なさで読者をやきもきさせながらも信頼に応えてくれるのも2巻と同じです。
もちろん、この作品の優れている点はエンタメ性だけではありません。鉄は錆びている状態が本来の姿なんだから錆びていいんだという発想の転換。かねやま本館での時間は物語の本筋ではなく出発点に過ぎないという前向きさ。児童文学としてのメッセージ性もまっとうで好感が持てます。