『嘘吹きネットワーク』(久米絵美里)

6年1組の学級委員の小野寺理子は、クラスでSNS上のトラブルが発生していることに悩まされていました。どうも八吹写真館にいる人物がフェイク画像を作るのがうまい職人で、SNS上のトラブルの火種をまいているらしいということをつきとめた理子は、写真館に乗りこみそこにいた同年代の少年を問いつめます。
作品の冒頭にある、嘘がSNS上で拡散されているさまの描写が、リアリティがあって笑わせてくれます。小学校でコツメカワウソを飼育しているという写真付きの投稿に対して、はじめは「かわいい」などのぬるい反応がなされ、どんどん拡散されると「動物虐待では?」という非難が始まり、マスコミの取材が入り、特定班に学校をつきとめられ、いつの間にかアカウントが削除されているという流れ。この流れ、何度もみたことがあります。
物語の冒頭は正義の探偵が悪の怪人を追いつめるクライマックスのような場面なのですが、この作品ではここが出発点です。その後も、クラスカースト上位の女子がカースト上位の男子の過去のセクハラを告発したことによって女子と男子が完全に分断されてしまったり、謎の転校生に対する事実無根の誹謗中傷が発生したりと、もめごとは続きます。
少年は様々な知識をひけらかし、人類には嘘をついたりだまされたりする習性があると説きます。嘘をつく側はその技術をどんどん磨き続けるので、メディアリテラシーを鍛えても無駄などと、皮肉な見解ばかり披露します。そして、理子のことを正義感から怪しい情報を拡散させるタイプの人間だと指摘し、理子の欺瞞を暴いてしまいます。
暴走する正義の人と冷笑家という、ある意味悪と悪の対決になっていて、ふたりの論争はスリリングなものになっています。
人類が愚かであることが前提の作品なので、作中の論理や結末は読者をすっきりさせるものではありません。しかし、嘘と共存して生きていかざるをえない人類のあり方を考察するディスカッション小説としては興味深かったです。