『カメくんとイモリくん 小雨ぼっこ』(いけだけい)

カメくんとイモリくん 小雨ぼっこ

カメくんとイモリくん 小雨ぼっこ

山の水源近くに住んでいるカメくんとイモリくんは、大のなかよしでした。しかし、大雨でイモリくんの家は流されてしまい、ふたりは離ればなれで暮らすことになります。
最初のエピソードは、カメくんがアナグマさんのバスに乗って遠く離れてしまったイモリくんの家を訪ねようとする話です。かばんにつめる荷物をどんどん列挙するという童話のお約束をきっちりこなす導入部が手堅いです。ところがカメくんは心配性で、なんども荷物確認を繰り返します。そして結局バスに乗り遅れてしまいますが、最高の結末を迎えます。
作品世界はとにかくゆるくて平和的。カメくんイモリくん以外の山の住人たちもみな善良です。特に印象に残るのは、カメくんのご近所さんのオオサンショウウオのおじいさんと、イモリくんのご近所さんのヒキガエルの長老です。このふたりも幼なじみでしたが、カメくんとイモリくんと同じような経緯で離ればなれになっていました。でも、いまでも友情は続いています。カメくんとイモリくんの友情も同様に続くのだという安心感を持たせてくれる嬉しいエピソードです。
この作品のいちばんの功績は、ひなたぼっこならぬ小雨ぼっこという言葉を発明したことにあります。両生類のふたりにとっては、天気雨に打たれることがなによりの喜び。雨と日の光と同時に浴びてうとうとする時間の豊かさは、かけがえのないもののように感じられます。