『子ども食堂 かみふうせん』(齊藤飛鳥)

子ども食堂 かみふうせん

子ども食堂 かみふうせん

ハードボイルド小学生が主人公の『へなちょこ探偵24じ』で独特の語りの世界をみせた齊藤飛鳥が、今度は子ども食堂というタイムリーでストレートな社会派ネタを繰り出してきました。八百屋さんが営んでいる子ども食堂に通うことになる4人の子どもが語り手を務める連作短編の形式になっています。
はじめの主人公の麻耶の語りは、世界名作劇場のポジティブ系主人公の語りのような浮ついたものでした。ここで『24じ』を経由している読者は、さっそくいやな予感を抱かされることになります。この子、つくってやがるな、と。子ども食堂にほかの子どもが入ってくる場面のセリフで、読者の予感は確信に変わり、だいたい麻耶の境遇は想像できるようになっています。
当たり前のことですが、子どもにはプライドがあります。だから、認めたくない現実を糊塗するために、語りを取り繕います。語りを仮装することは、つらい現実を生き抜くために武装することと同義です。齊藤飛鳥の児童文学作家としての資質は、子どものプライドのあり方の機微がわかっているところにあります。
当然ながらこの語りは、大人の作家が子どもの語りを仮装したものです。ただし、作中の子どもは、自らの語りを仮装しています。つまりここでは、語りを操作できるまでに確かな主体を持った存在としての子どもが発見されているのです。
現実の子ども食堂も抱えている悩みですが、子ども食堂を困っている子どものための場所とアピールしてしまうと、困っている子どもほど行きにくくなるというジレンマがあります。それを解消するため、この作品でもそれほど困窮しているわけではない子どもの居場所としての子ども食堂のあり方を描いています。第3章の主人公の悠乃は、TRPGのオタクの家族の影響を受け自分もいっぱしのオタクになっていました。悠乃は子ども食堂で趣味の布教をし、特技を生かし自分を解放する居場所を得ます。
齊藤飛鳥は、TRPGの教養も持っていたようです。TRPGといえば、演じることと物語を作ることを同時におこなう非常に洗練された趣味です。さらに、2018年には第15回ミステリーズ!新人賞も受賞しています。こういった教養を持つ作家が今後どんな語り・騙りをみせてくれるのか。ぜひ児童文学界に定着してもらいたい人材です。