『ママたちとパパたちと』(グンネル・リンデ)

1976年のスウェーデンの児童文学短編集。家族と性の多様性をテーマにした作品が並んでおり、その問題提起は現代でも通用するものになっています。が、子どもが軽はずみに魔法を使ってしまう作品世界で展開される奇想は飛び抜けたものになっているので、社会風刺としてのみ理解するのはもったいない作品集になっています。愉快なナンセンスファンタジーとしても読まれるべき作品です。
第1話の「トンボちゃんのつくったママたち、パパたち」は、「お父さんもお母さんも"はじめからなかった"」女の子トンボちゃんが主人公。広いマンションで暮らしていて、家具たちは自分から住まわせてくださいと要求してやってきたので、なかなか快適な生活をしていました。でも、自分にもお母さんとお父さんがいてもいいのではないかと思ったトンボちゃんは、魔女さんに電話して親の製造法を聞き出し、自分でつくろうとします。
子が親をつくるという転倒もおもしろいし、電話で魔女に連絡するという近代と魔法の世界の混交もおもしろいです。トンボちゃんはレーズンでできた小さなお母さんをふろおけに入れます。しかしお母さんが気に食わないことを言ったので、お母さんのおなかを割いてしまいます。するとおなかのなかからさらに小さいお母さんが現れます。そのお母さんもトンボちゃんのお眼鏡にかなわなかったので、さらにおなかを割くと、さらに……と、お母さんのマトリョーシカ状態になります。暴力的でグロテスクでありながら笑える光景に呆然とさせられてしまいます。
第4話は男子がママになるという、これまた政治的に正しそうなネタの作品です。ラッセが産んだのはクニッケディックというモンスター赤ちゃん。ラッセママは赤ちゃんのために児童手当を要求するほどしっかりしていましたが、クニッケディックに与えるせきどめシロップの入手にそれなりに苦労します。しかし最終的にはすべてがうまくいき、「ママになるって、最高だな。超能力の子どもを生めば」というなんとも気の抜けた感想を表明して終わりになります。
そのほかにも、子どもが魔法で両親をペット化する話とか、ママが竜に変身する話とか、どう反応していいのか悩んでしまうような話が並んでいます。