『帰れ 野生のロボット』(ピーター・ブラウン/作・絵)

かつて無人島に漂着してサバイバルし、野生を獲得してガンのキラリという息子も得て母親になったロボットのロズの物語『野生のロボット』の続編。破壊された身体の修理のため人間の世界に戻ったロズは、農作業用ロボットとして農場に買い取られます。
物語の冒頭で多くの読者は、修理され人の手の入ってしまったロズははたしてわれわれの知るロズなのだろうかという不安を抱くことになります。人の姿が消えた後、ロズは牛舎の牛たちの前で自分の身の上を語りはじめます。そしてロズは、島で獲得したあの技能を使って人から怪しまれないようにしていたのだと明かします。ここで読者の不安は安堵に変わります。
短い章立てでストーリーはテンポよく進みます。ロズのセリフや地の文の語りは淡々としているので、引っかかるところがなく読みやすいです。それでいてたまに語り手は読者の方を向き、先の展開をほのめかすような発言をしたりします。読者のもてなし方が非常にうまい語りです。
フィクションに登場するロボットの多くは、擬人化されているものです。しかしそれは、動物やら植物やらが擬人化されるのとは意味合いが異なります。人は自分に似せてロボットを造っていますから、その営みは神が自らの似姿として人を創造したことと対応します。ロズは旅路の果てに、自分の創造主であるモロボ博士と対面することになります。『帰れ 野生のロボット』のテーマは結局、自分はどこから来てどう生きるべきなのか、どう生きたいのかという、普遍的で壮大な難問になります。作品の神話的な構造により、この難問が美的で感動的に処理されています。
ところで、モロボ博士という人名と島というキーワードを重ねると、ある有名な古典SFのタイトルが思い浮かんでくるのですが、これはあまり考えない方がいいかな。