『ガラスの犬 ボーム童話集』(フランク・ボーム)

本邦初訳のボーム童話集。ボームといえば、やはりアメリカでファンタジーを成立させたということが重要で、この作品集の「作者のことば」ではこのようなことが述べられています。

アンデルセンやグリム兄弟、ハウフ、ペロー、ガバリエロ、アンドルー・ラングによる美しい有名なお話の数々は、古い歴史をさかのぼるものであり、アメリカのおとぎ話にはそぐわない。(中略)そこでわたしは、目を大きく見開いたこの国の子どもたちに、モダンな妖精の出てくるモダンな話をさしだすしかない。

ということで、西欧のおとぎ話とは一風変わった愉快なお話が展開されます。
アメリカのおとぎ話では、家の中なかは安全地帯ではありません。おじさんの衣装箱から飛び出した三人組のイタリアの盗賊だったり、招いてもいないのに突如部屋に出現したセールスマンだったりが子どもに襲いかかります。
課題を解決した報酬としてお姫さまが与えられるというお約束も機能しません。「死ぬくらいなら、どんなおいぼれとだって結婚するわ」と言って病気を治してもらったお嬢さまは、相手が若く美しい貴公子ではなかったので拒絶しますが、皮肉な経緯をたどって冷えきった結婚生活に入ることになります。あるいは、窮乏した王国のわずか10歳の王子が大臣たちによってオークションにかけられ金持ちの老婆と結婚させられるという、おそろしく非人道的な犯罪行為も計画されます。
特におもしろかったのが、最後に配置された「ふしぎなポンプ」という話です。出発点はコガネムシを助けた恩返しに大量の金貨をもらうというお約束通りのものです。しかし、牧師がその出所にケチをつけます。もしこれが妖精のつくったまぼろしのお金なのであれば24時間以内に消えてしまうからそれを使うのは詐欺に等しい、本物なのであればそれは盗品なのだからそれを使うのは犯罪であると。なかなか笑える屁理屈です。