『ゴリランとわたし』(フリーダ・ニルソン)

2005年刊行のスウェーデンの児童文学の邦訳が登場。著者のフリーダ・ニルソンは、リンドグレーンと並び称されるほどの高い評価を受けている作家だそうです。
主人公は、あまり環境のよくなさそうな施設〈ヨモギギク園〉で育った9才の女子ヨンナ。ある日子どもを引き取りたいという女性が現れますが、その女性の姿が2メートルほどの巨体だったため、園の子どもたちはみな逃げ出してしまいます。逃げ遅れたヨンナはなぜか気に入られてしまい、ゴリランと名乗った女性の養子にされます。
園の仲間がゴリランのおなかがふくれていることと養子をもらうことに関連があるのではないかという邪推を披露していたので、ヨンナははじめはおびえていました。しかし、一緒に車の運転をしたりインチキ古道具屋をやったりしているうちにだんだんゴリランのことが好きになっていきます。
ゴリランは、見た目が他の人と異なっているために苛烈な差別を受けているマイノリティ女性です。差別に立ち向かうため粗野な行動をすることもありますが、実は『オリバー・ツイスト』をバイブルにしている知的で繊細な本オタクであるという面も持っていました。いずれは古書店を開きたいという夢があり、ヨンナもその夢を応援します。
年齢差があるので、ゴリランは保護者としてヨンナを守り導く役割を負っています。ただし、ふたりの関係は可能な面では対等なパートナーシップを志向しています。ふたりのお互いを尊重しあう態度には胸を打たれます。ヨンナは特別本が好きというわけではありませんが、ゴリランの趣味を尊重していてどんなときも本への思いを大事にするように促します。ふたりの人生に関わる重大な決断が必要な場面では、ゴリランは大人だからといって独断で突っ走らずに、ヨンナの主体的な選択に委ねます。このふたりの理性と思いやりのあり方は、なかなか真似できるものではありません。
この作品で最も美しい場面は、決戦前夜の、ゴリランが森のなかの秘密の場所にヨンナをいざなう場面です。

「あたしがいいたいのはね、あんたにこの場所をおぼえておいてほしい、ってことなんだ。あした、どんな結果になったとしても、進むべき道はどこかにちゃんとあるんだよ。ちょうどあたしがここにきていたみたいに。その……消えちゃいたいなって思ったときに」

ゴリランはここで文学への信仰を吐露し、道しるべとなる星の存在を示します。どんなに打ちのめされても希望を捨てず生きのびてきたゴリランの魂の気高さに圧倒されます。
最悪な人生のなかにかすかな光を見出す希望の物語として、虐げられた女性同士の連帯の物語として、最高に美しい作品でした。