『ぼくのがっかりした話』(セルジョ・トーファノ)

第一次世界大戦の時代のイタリアで雑誌連載された作品。カルヴィーノの『マルコヴァルドさんの四季』の挿絵なども手がけた著者自身による挿絵も雑誌掲載時のままで収録されています。
小学校の卒業試験に3回も落第したベンヴェヌートは、12人の家庭教師からさじを投げられます。13人目の家庭教師パルミーロ・メッザネッラはまったく勉強を教えずおとぎ話ばかりを語っていて、近所の子どもたちの人気者になります。ベンヴェヌートはパルミーロが持っていた7リーグ靴を盗んで家出をし、さまざまなおとぎ話世界を渡り歩きます。
タイトルのとおり、物語内では失望が繰り返されます。ベンヴェヌートは親や教師からがっかりされ、ベンヴェヌートが出会うおとぎ話世界の住人たちはベンヴェヌートにがっかりされます。
まずベンヴェヌートは、たくさんの子どもたちを養っている巨大な体躯の老夫婦と出会います。なぜかこの家では肉食が禁忌となっていて、その手がかりがきっかけでベンヴェヌートは老夫婦の正体を知ります。ベンヴェヌートからすればこれは命拾いなのですが、おとぎ話世界のスターとしての輝きを失った老夫婦の姿にベンヴェヌートはがっかりさせられます。
このように、英雄は落ちぶれ、幸せな結婚生活は破綻し、尊い自己犠牲は無駄死にに終わるといったがっかりを、ベンヴェヌートは何度も体験させられます。アンチ成長物語として、脱力のギャグとして秀逸です。
しかし、ベンヴェヌートが表明する怒りは本物です。それは第一次世界大戦中という時局への異議申し立てでもあるのでしょうが、現代にも通用する普遍性を持っています。ガッカリダケガ人生ダ。

「信じるって? 何を信じるの? あんたが約束した魔法はどこにあるのさ? あんなに魅力的だったあの輝きはどこに行ったの? あんたは見たの? 力は失われて、財産は消えて、偉大さや野心もなくなって、有名人は落ちぶれた。どこもがっかりすることばかり! 幻滅して、がっかりすることばっかりだ! どこも貧乏だし、真実はねじまげられているし、みじめな現実と、こけおどしや見せかけ、つまらないことだらけじゃないか!」